東京高等裁判所 平成10年(行コ)52号 判決 1999年1月19日
千葉県松戸市金ヶ作一四五番地の二
控訴人
柳沢正毅
千葉県松戸市小根本五三番地三
被控訴人
松戸税務署長鈴木一友
右指定代理人
前澤功
同
井上良太
同
上出宣雄
同
上賢清
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成六年三月二八日付けで控訴人に通告した相続税の更正処分(ただし、平成七年一二月一二日付けの裁決により一部取り消された後のもの)のうち、課税価格一一二二万六〇〇〇円を、納付すべき税額五四九万四五〇〇円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分(ただし、平成六年六月三〇日付けの異議決定及び前記裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。
3 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二本件事案の概要
本件事案の概要は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第二記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決の補正
1 原判決七頁二行目末尾に改行して次のとおり加え、三行目の「(以下『本件特例』という。)」を削る。
「これに対して、被控訴人は、『(一)措置法七〇条による相続税の非課税措置(以下『本件特例』という。)は、相続又は遺贈により財産を取得した者が、その取得した財産を、相続税の申告書の提出期限までに、特定の公益法人等に贈与等をした場合に法定の除外事由がないときに限り適用されるものであり、(二)相続税法一二条一項三号は、公益事業を行う者が相続により取得した財産のうち公益事業用財産一般について、公益事業を行う者が個人である場合には親族等の者に対してその事業について施設の利用等事業に関して特別の利益を与えている事実がない場合に限り、また、右財産取得者がその財産を取得した日から二年を経過した日において、なおその財産を公益を目的とする事業の用に供していない場合を除いて(同法一二条二項)適用されるものである。したがって、本件特例にあっては相続又は遺贈により財産を取得した者から財産の贈与を受けた者が公益事業の主体であることを要するのに対して、相続税法一二条にあっては相続等によって財産を取得した者が公益事業の主体であることを要するのであるから、右両規定は、非課税とされる相続又は遺贈により取得した財産を公益事業に供する主体が異なり、その適用要件を異にするものである。』と主張した。」
2 同一一頁五行目冒頭から八行目末尾までを次のとおりに改める。
「(3) 仮に、本件各土地の寄附が相続税の申告書の提出期限である平成三年五月一三日までに柳沢学園に対して寄附されたとみるべき余地があるとしても、本件各土地は、控訴人個人を設置者とするさつき幼稚園ないし北松戸さつき幼稚園の園舎敷地として平成六年三月二二日まで利用されていたもので、その寄附後二年を経過した日において、柳沢学園の公益目的の事業に供されていなかったのであるから、措置法七〇条の二第二項により本件特例の適用はない。」
二 当審における控訴人の主張
「生前に寄付が実行されなくても、被相続人の寄付の意思が明らかならば、その寄付は遺贈と看做す」とするのが通達(昭三五年直資九〇)(以下「本件通達」という。)であるところ、被相続人である義男は、生前から本件土地を学校法人である柳沢学園に対して寄附する意思を明らかにしていたのであるから、本件土地は、柳沢学園に対して遺贈されたものと看做されるべきである。
三 当審における被控訴人の主張
1 本件通達である昭和三五年一〇月一日付け直資九〇(被相続人の意思に基づき公益法人を設立する場合等の相続税の取扱いについて)第四項の規定は、既設の公益法人に贈与しようとしていた者について相続開始があった場合において、相続財産の全部又は一部がその既設の公益法人に帰属したときにおける財産の取扱いについて右第一ないし第三項を準用する旨を明らかにしたものであるが、同第三項は、同第二項の1に該当するかどうか、すなわち、被相続人が公益法人に財産を提供する意思を有していたことが明らかであるかどうかは、被相続人の意思を立証することができる生前の事実の存否により判定することとされている。
2 本件においては、被控訴人義男が柳沢学園に対し、本件各土地等の寄附を申し込んだ旨の記載のある昭和六一年三月一九日付け寄附申込書(甲一の1、2)が存在する。しかし、本件各土地につき、寄附予約を原因とする所有権移転請求権仮登記が経由されたのは、右日付から約五年後の平成三年五月二四日であり、さらに控訴人によって本件各土地の寄附が実行された平成六年三月二二日までにはさらにその後約三年間を要していることを鑑みると、義男において、本件各土地等につき具体的、現実的に寄附の申し込みをした事実が真実存在したものとは判定できないものである。
第三争点に対する判断
争点に対する判断は、次のとおり付加するほかは原判決の「事実及び理由」の第三記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決二四頁一〇行目と一一行目の間に次のとおり加える。
「また、仮に、柳沢学園に対する本件各土地の寄附が控訴人主張の平成三年五月一二日までになされたとしても、前認定のとおり、本件各土地は、控訴人個人を設置者とするさつき幼稚園ないし北松戸さつき幼稚園の園舎敷地として平成六年三月二二日まで利用されていたものであるから、その寄附後二年を経過した日において、寄附を受けた柳沢学園の公益目的の事業に供されていなかったのであるから、この点からしても本件特例の適用は排除される。」を加える。
二 原判決三四頁六行目と七行目の間に次のとおり加える。
「また、控訴人は、本件通達にしたがって本件各土地は、被相続人である義男によって、柳沢学園に対して遺贈されたものとされるべきであると主張するが、本件各土地は控訴人が義男から借り受けて個人で経営するさつき幼稚園ないし北松戸幼稚園の園地として届出されていたのであるから、右両幼稚園の設置者を柳沢学園に変更する等の問題の対処をしないまま未だ小室さつき幼稚園を設置しているにすぎない柳沢学園に対して確定的に寄附することは不自然な処理であり、前記認定にかかる義男死亡後の本件各土地についての登記及びその管理処分に関する経緯に照らしても、被相続人義男作成名義の昭和六一年三月一九日付け寄附申込書の本当の作成時期がいつかという疑念はともかく、これにより義男が右時点において確定的に寄附の意思すなわち遺贈する意思があったと認めることはできない。したがって、控訴人の右主張も採用できない。」
第四結論
以上によれば、控訴人の本件請求は理由がないので棄却すべきである。
よって、原判決は相当であって本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 池田亮一 裁判官 廣田民生)